最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)357号 判決 1970年10月29日
上告人
木村次作
代理人
堀川嘉夫
上原洋允
被上告人
松田佳宜
代理人
中村喜一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人堀川嘉夫、同上原洋允の上告理由第一点および第二点(一)について。
所論指摘の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。ところで、占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであり、原審は、上告人が本件土地の所有権を譲り受けることを内容とする交換契約に基づきその引渡を受けた旨を認定したのであるから、上告人が右交換契約によつて本件土地の所有権を取得しえなかつたとしても、上告人の右占有は、所有の意思をもつてする占有であるといわなければならない。したがつて、原審が前記の事実を認定しながら、上告人の占有が所有の意思をもつてする占有ではないとした判断は、違法というべきである。しかしながら、原審は、上告人が本件土地の引渡を受けた当時、本件土地が自己の所有となつたと信じたわけではなかつた旨の事実を認定しているのであるから、上告人は、本件土地の占有の始めにおいて悪意であつたものというべく、したがつて、上告人の民法一六二条二項の規定による取得時効の主張を排斥した原審の判断は、結局正当であるといわなければならない。原判決にはその結論に影響を及ぼすべき違法はなく、論旨は、採用することができない。
同第二点(二)について。
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができる。そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人の本訴請求が権利濫用にわたるものとはいえないとした原審の判断は正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とするか、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官金員の一致で、主文のとおり判決する。(藤林益三 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)